メール
メニュー

生命(いのち)輝かそう日本の医療人
~医療と教育を中心とした街づくり・国づくり~
令和2年度診療報酬改定のポイント

2020.04.11

全国公私病院連盟 会長

邉見 公雄氏


JBCCは2020年2月13日、全国公私病院連盟会長、全国自治体病院協議会名誉会長、赤穂市民病院名誉院長などを務める邉見公雄(へんみきみお)氏を講師にお招きし、診療報酬改定をテーマとしたユーザー勉強会を開催しました。当日は令和2年度診療報酬改定のポイントをはじめ、医療界における今後の課題、病院経営を取り巻く環境変化と改革などについてお話しいただきました。当日の内容を要約してご紹介します。


医師の働き方改革を盛り込んだ

診療報酬改定のポイント

先日、令和2年度診療報酬改定の内容が公表されました。改定の基本的視点は4つあります。1つめは、医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進で、これは重点課題にもなっています。2つめは、患者・国民にとって身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現、3つめは、医療機能の分化・強化、連携と地域包括ケアの推進、そして4つめが、効率化・適正化を通じた制度の安定性・持続可能性の向上です。


1つめの医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進については、医師等の長時間労働の改善、救急医療体制等の評価、業務の効率化に資するICTの利活用の推進といったことが具体的方向性として挙げられてます。


令和2年度診療報酬改定についておさらいしておきます。診療報酬は+0.55%。このうち0.08%(公費126億円)は救急病院における勤務医の働き方改革への特例的な対応に対して充当します。一方、薬価はマイナス0.99%、材料価格も0.02%のマイナスです。


診療報酬改定率の推移を見ると、過去20年で改定率がプラスになったのは民主党政権の時だけです。この間、医療に従事する人は増えています。医療安全のために臨床工学技士を採用したり、電子カルテのシステムを導入するなど、経費が増大しているにもかかわらず、診療報酬は伸びていませんから、病院経営は大変です。


勤務医の働き方改革として、先述の126億円のほかに、地域医療介護総合確保基金で公費143億円程度を確保しました。補助の対象となる医療機関は、例えば、救急車受入件数が1000台以上2000台未満であり、地域医療に特別な役割がある医療機関や、同1000台未満だけど、離島、へき地等で、同一医療圏に他に救急対応可能な医療機関が存在しないなど、特別な理由の存在する医療機関などです。


ここが重要なのですが、急性期一般入院料の算定に必要な重症患者の割合も見直しがありました。「看護必要度Ⅰ」で見ると、「入院料1」の重症患者の割合は30%から31%に引き上げられました。これによって現在、入院料1を算定している医療機関(必要度Ⅰ)のうち、3割近くが基準を満たせなくなるという厚労省のシミュレーションもあります。


地域医療構想との整合に基づき、総合入院体制加算の見直しも行われ、小児科、産科に係る入院要件がなくなりました。地域包括ケア病棟の見直し改定では、400床以上は新規届出不可となりました。大きい病院は急性期医療をやって、地域包括ケアは地域の中小病院に任せなさいという趣旨です。施設基準は要件が厳しくなりました。


また、医師の働き方改革支援に関連しては、医事事務作業補助体制加算の評価充実、看護補助者の評価向上があり、ICTの利活用については、医療安全委員会のウェブ開催を認めたり、NST(栄養サポートチーム)、在宅療養栄養指の導入や、患者さんの同意文書の電磁的記録を認めることなどが盛り込まれました。


今後の課題は「医師の需給・偏在」

抜本的解決に必要な4つの提言

今後の課題は、「医師の需給・偏在」です。3年ぐらい前に、医師需給検討委員会で14項目からなる医師偏在対策が議論されました。その中には、「管理者の要件」ということで、特定地域・診療科で一定期間診療に従事することを、臨床研修病院、地域医療支援病院、診療所等の管理者の要件とすることを検討するとありましたが、掛け声倒れに終わりました。


ここからは厚生労働省の最近の見解です。実は、医師の数は増えています。平成20年以降、地域枠と連動した医学部の入学定員増を開始し、過去最大規模の8000人超まで増員しています。しかし、彼らは地方に来ません。2008年から2014年にかけて大都市圏では医師が増えていますが、過疎地域では24%の医療圏で医師が減っています


医師の需給・偏在を見直し、日本の医療をよくするには、医師の勤務時間についても改善する必要があるでしょう。2024年4月以降は、年間960時間の時間外労働規制が適用されます。連続勤務時間に制限を設けるとともに、働き詰めにならないよう9時間のインターバルをつくりなさいとしています。


時間外勤務時間が年間1860時間を超える病院勤務医は全体の約1割、約2万人いるといわれます。これを2024年4月までにゼロにしないといけませんが、実現は難しいと思います。大学病院の9割弱、救命救急機能を有する病院の半分以上で、1860時間を超える医師がいます。


何をすれば、医師の労働時間を減らすことができるでしょうか。点滴の実施や静脈ラインの確保をみんな看護師にやってもらおうということで、一般病院ではそれが当たり前ですが、大学病院では業務移管が進んでいません。1つひとつの特定行為ではなく、パッケージ化してタスクシフトを図るために研修制度も設けられましたが、修了者はまだ1000人にも満たない水準です。労働時間の短縮に向けた緊急的な取り組みが不可欠であり、労働時間管理や36協定の自己点検、既存の産業保健の仕組みの活用などが推奨されています。


団塊ジュニアが65歳以上になる2040年を展望した医療提供体制については、「地域医療構想の実現等」「医師・医療従事者の働き方改革の推進」「実効性のある医師偏在対策の着実な推進」の三位一体で改革を推進すべきとされています。また、地域医療構想の実現に向けたさらなる取り組みとしては、代替可能性がある、または診療実績が少ないと位置付けられた効率・公的医療機関等に対して、他の医療機関への統合や他の病院との再編統合を迫っています。


医師の偏在を見直すために、新たな「医師偏在指標」を導入し、偏在度合いを可視化する動きもあります。それによると、最も医師が多いのは東京で、京都、福岡が続きます。一番少ないのが岩手で、それに次ぐのが新潟です。


いずれにせよ、現状の偏在対策では、地域が消滅してしまうような解決にしかなりません。そこで私が提言したいのは、①緩やかなマッチング制、②開業条件か保険医条件に地方勤務を加えること、③プロフェッショナルオートノミーは限界があるとして、これを排すること、④保険者は自らの権利を自覚し、行政訴訟も辞さない(憲法25条違反)姿勢を見せること――です。


地域住民に根差した理想的な

医療・介護の提供を目指して

医療・介護は大産業です。例えば高知県で就業者数が一番多いのは、四国銀行でも土佐海運でもありません。近森病院です。医療・介護は就業者が多く、労働分配率も高い、すそ野が広く、関連産業も多く、地方では最大規模の事業所の少なくありません。また、医療・介護は同時に成長産業でもあります。産業別就業者の割合を見ると、1位の卸売業。小売業、2位の製造業に次いで、医療、福祉は3位となっています。


私が名誉院長を務める赤穂市民病院で、孔子の論語にも出てくる「恕(じょ)」を院是に掲げ、住民中心の病院づくりを進めています。講演のタイトルにもある「生命(いのち)輝かそう」をキャッチフレーズとして、病院の封筒やはがき、パンフレット等に刷り込んでいます。


ところで「医」とは何でしょうか。私の勝手な解釈では、矢の傷を医師、薬剤師、看護師という3つの職種が囲って直すという意味です。いまは30種類以上の職種の方々によって直すので、〇(閉じていない丸)に「矢」と書いています。しかし、〇は完全には閉じていません。本人の気や家族の支え、神仏の力、運などがあるためにです。完全に閉じていないことは、同時に、医療にも不確実なことや限界があることを意味しており、患者さんへの啓発活動でも訴えていまです。


2018年に地域医療・介護研究会JAPAN(LMC)というNPOを発足し、その会長も務めています。LMCは地域が主体となる医療・介護を提唱し、地域住民に根差した理想的な医療・介護の提供の実現を目指して活動を行っています。繰り返しになりますが、医療・介護は地方の有力産業であり、地方創生には一次産業と並んで医療と介護の発展しかないと考えています。

お問い合わせはこちらから矢印