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ヘルスケア分野におけるDXはどのように進むのか
ーデータの利活用のこれからー

2021.04.08

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●著者プロフィール●

石井 富美(いしい・ふみ)

多摩大学 医療・介護ソリューション研究所 副所長

多摩大学大学院 客員教授





2021年2月26日のJBCCヘルスケアコンソーシアム総会では、多摩大学 医療・介護ソリューション研究所副所長を務める石井富美(いしいふみ)氏を講師にお招きし、「ヘルスケア分野におけるDXはどのように進むのか~データの利活用のこれから~」をテーマにお話しいただきました。

 

「骨太方針2020」では
新しい日常への変革を強調


 政府が進める経済や財政の基本方針については、過去に示された「経済財政運営と改革の基本方針」、いわゆる「骨太方針」におけるサブタイトルを見れば、その意図を読み取ることができます。2020年は、本来ならば2019年に掲げた「『令和』新時代:『Society 5.0』への挑戦~」をどう実現するかが、メーンテーマになるはずでした。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響により、政府は「危機の克服、そして新しい未来へ」と方針を切り替え、取り組みを進めています。


 「骨太方針2020」では、は、①新型コロナウイルス感染症の下での危機克服と新しい未来に向けて、②国民の生命・生活・雇用・事業を守り抜く、③「新たな日常」の実現――の3つを柱に掲げています。新型コロナウイルス感染症対策を最重要課題としながらも、すべての柱で「新しい未来、新しい日常への変革」という考えが強調されました。医療分野では、オンライン資格確認の導入や保険医療データプラットホームの本格運用といった取り組みが開始され、介護分野では科学的介護という概念と栄養の取り組みの推進が打ち出されました。


 同時に、戦後最大となる90兆円以上の新規国債が発行されたことを受けて、社会保障と財政の持続可能性に係る構造的な問題が生じていると指摘しながらも、「誰ひとり取り残されることなく生きがいを感じることのできる包摂的な社会」という一文が盛り込まれていることもポイントの1つです。医療分野が取り組んできたインクリュージョン(包摂)という視点も引き続き重視し、どんな状態にある方々も働ける社会の実現に向けた環境整備が求められていると読み取ることができます。



Society5.0に向けた
新しい医療提供のあり方


 それでは、「新たな日常の実現」に向けた、「新しい医療提供」とはどうあるべきなのでしょうか。新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、感染対策の観点から、院内のゾーニングや問診の際のタブレット活用、診察前のオンラインを通じた患者情報の把握といった取り組みをはじめた病院もあります。しかし、家族の面会制限も長期化し、患者のQOLの低下など数々の弊害も生じています。他方で、入院していては家族の面会ができないからと、自宅での療養を望む方が増え、結果的に在宅医療が推進されるケースも増えています。当然、医療機関もそうしたニーズに応えられるよう、在宅医との連携や医療機器の手配といった対応が求められています。


 2020年7月に行われた経済財政諮問会議では、「新たな日常(ニューノーマル)」には、デジタル化を原動力とした未来社会の姿である「Society5.0」の実現が不可欠であるとし、その中間報告として「選択する未来2.0」で方策を示しました。ここでは、「10年分の変革を一気に進める」、「できることは直ちに着手、時間を要する課題についても5年以内に集中実施」など、かなりインパクトのある言葉が踊っています。


 方策の根拠となったのは、新型コロナウイルス感染症による生活意識や行動変化の1つである「テレワークの実施率」を調査した内閣府によるアンケートです。これによると、東京23区内では55.5%、地方圏でも26%がテレワークを実施したことがわかりました。これをきっかけに、職業選択における変化をはじめ、若者の所得を上げるための副業の容認、女性活躍や仕事と子育ての両立といった課題の解決を一気通貫で進めたいという内閣府の思惑が読み取れます。


 同じく7月に行われた「未来投資会議」においても、新しい働き方の定着とともに、デジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性が強調されました。


 並行して同月、厚労省によるデータヘルスの集中改革会議で議論されたのが、デジタル庁を中心に医療情報を利活用する仕組みを2年間で構築するという方針です。2022年の電子処方箋の運用開始も計画に入っています。


 これに向けて医療機関および薬局では、オンライン資格確認の導入に向けて顔認証付きカードリーダーが無償提供されていますが、これはまさにDX実現に向けたステップの1つと言えます。DXは、一足飛びには実現できません。ファーストステップとして、効率化のためにデジタルツールを導入するなど、部分的なデジタル化「デジタイゼーション」※1が必要となります。診察券の情報を手入力し、誤りがないか別のスタッフが確認するというアナログな作業から、顔認証付きカードリーダーによる確認へとデジタイゼーションすることで、次のステップとなる「デジタライゼーション」※2へ進むことができるのです。外部環境を含め、プロセス全体のデジタル化を経て、ようやく最後のステップとしてDXという変革が実現できます。カードリーダーの無償配布はそこを目標においた試みです。ちなみにRPAは、現在、多くの病院で導入されているものですが、その認識がない医療スタッフは意外と多くいます。例えば、問診表をタブレットに入れ、電子カルテと連動させるのはまさにRPAと呼ばれるものです。


 Society 5.0では、多様な医療情報をAIで解析し、医学の発展や治療の標準化、疾病予測などに役立てるとともに、医療費や介護費などの削減や人手不足といった課題を解決する将来像が描かれています。


※1デジタイゼーションとは、工程で効率化のためにデジタルツールを導入するなどの部分的なデジタル化(例:問診をタブレットに)
※2外部環境も含め、プロセス全体をデジタル化(例:問診をタブレットに入力、電子カルテとも連動させる)



DXは医療だけにあらず
ヘルスケア分野全体で実現を


 医療業界における新たな働き方を考えるうえで、対患者業務ではオンラインワークや在宅勤務は難しい部分はあるものの、リモートによる診療後のフォローやスタッフのローテーション勤務、院内のオンライン会議については可能ですし、効率化が図れるメリットがあることも、少しずつ浸透してきました。これを新型コロナウイルス感染症による時限的なものではなく、スタンダードにすることも考えておくべきでしょう。病院も少しずつ、新しい働き方にシフトしているなか、DXまでは行かなくともデジタイゼーション程度の実現は難しくない時期にあると言えます。


 一方、2021年4月の介護報酬改定でも、医療と同様にICTの利活用が明確に打ち出され、エビデンスに基づく科学的介護の推進が期待されています。リハビリテーション計画書等の情報を収集するVISITや、高齢者の状態やケア内容等の情報を収集するCHASEが、ありとあらゆる加算の条件として位置づけられています。CHASE・VISIT情報の収集・活用やPDCAサイクルの推進を評価する、「科学的介護推進体制加算」が新設され、これらの一体的な運用にむけて科学的介護情報システム、通称LIFE(Long-term care Information system For Evidence)と名付けました。医療の質の3側面と呼ばれる、ストラクチャー(構造)、プロセス(過程)、アウトカム(結果)を介護分野にも当てはめ、ケアの見直しを図っていくという視点が、本格的に求められています。 


 新たな日常にも対応したデータヘルスの集中改革が、医療だけでなく介護、そしてヘルスケア分野全体に求められています。DXは長期的な視点でなければ実現は難しいということを念頭に置いたうえで、データ利活用を推進し、今までの方法を変えるところからまずははじめてみませんか。




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