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中小規模病院向け 令和6年度診療報酬改定ポイント解説

2024.04.15

MICTコンサルティング株式会社 代表取締役 大西 大輔 氏筆者プロフィール 
MICTコンサルティング株式会社 代表取締役 
大西 大輔 氏


令和6(2024)年度の診療報酬改定については、3月5日に告示が行われ、改定内容が決定しました。今後は疑義解釈等によって不明点が判明していくこととなります。



基本方針


 改定に当たっての基本認識としては、①物価高騰・賃金上昇、経営の状況、人材確保の必要性、患者負担・保険料負担の影響を踏まえた対応②全世代型社会保障の実現や、医療・介護・障害福祉サービスの連携強化、新興感染症等への対応など医療を取り巻く課題への対応③医療DXやイノベーションの推進等による質の高い医療の実現④社会保障制度の安定性・持続可能性の確保、経済・財政との調和の4点が示されています。
 また、改定の基本的視点と具体的方向性としては、①現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進②ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進③安心・安全で質の高い医療の推進④効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上の4項目が示されています。



診療報酬改定率


 令和6年度の診療報酬改定率については、診療報酬本体が+0.88%、薬価等が▲1%、全体では▲0.12%となりました。各科の改定率は、医科が+0.52%、歯科が+0.57%、調剤が+0.16%となっています。
 「診療報酬本体」の内訳は、①40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師・薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工所等で従事する者の賃上げに資する措置分として+0.28%程度。②看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種について、令和6年度にベア2.5%、令和7年度にベア2.0%を実施していくための特例的な対応として+0.61%。③入院時の食費基準額の引き上げ(1食当たり30円)の対応として+0.06%。④生活習慣病を中心とした管理料、処方箋料等の再編等の効率化・適正化として▲0.25%が計上されています。
 名目上はプラス改定ですが、賃上げ分を除くと実質的にはマイナス改定となっています。



医療従事者の人材確保や賃上げに向けた取組


 物価高騰に伴う職員の賃上げに対応するため、外来については初診料を3点、再診料を2点引き上げています。入院についても、40歳未満の勤務医師、事務職員等の賃上げの対応として入院基本料が引き上げられています。
 また、外来・在宅医療を実施している医療機関において、勤務する看護師など医療関係職種の賃金の改善を実施している場合の評価として「外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)」が新設されます。初診時に6点、再診時に2点、訪問診療時の同一建物居住者以外の場合は28点、同一建物居住者の場合は7点となります。算定に当たっては、事前に地方厚生局長等に届け出たうえで、主として医療に従事する職員の賃金の改善を図る体制を整えた場合に算定できるとしています。同評価料を算定する場合は、令和6年度及び令和7年度において定期昇給を除き、対象職員の賃金の改善を実施する必要があります。また、令和6年度及び令和7年度における保険医療機関に勤務する職員の賃金の改善に係る計画を作成し、計画に基づく職員の賃金の改善に係る状況について、定期的に地方厚生局長等に報告することを求めています。
 さらに、病院・有床診療所において、勤務する看護職員、薬剤師その他の医療関係職種の賃金の改善を実施している場合の評価として、「入院ベースアップ料」が新設されています。1日につき、1点から最大165点まで算定できるものとなります。算定に当たっては、事前に地方厚生局長等に届け出たうえで、主として医療に従事する職員の賃金の改善を図る体制を整えた場合に算定できるとしています。医療機関ごとの点数については、医療機関における対象職員の給与総額、外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)により算定される点数の見込み並びに延べ入院患者数の見込みを用いて計算し算出された値に基づき該当する区分を届け出ることとなります。また、令和6年度及び令和7年度において定期昇給を除き、対象職員の賃金の改善を実施する必要があります。また、令和6年度及び令和7年度における保険医療機関に勤務する職員の賃金の改善に係る計画を作成し、計画に基づく職員の賃金の改善に係る状況について、定期的に地方厚生局長等に報告することを求めています。



働き方改革


 2024年4月から医師の働き方改革が施行されることを受けて、医師の事務作業の負担軽減をさらに進めるため、「医師事務作業補助体制加算」の評価が、一律20点引き上げられています。また、医師事務作業補助者による医師の業務への適切な支援を推進する観点から、医師事務作業補助体制加算1の要件に、「医師事務作業補助者の勤務状況及び補助が可能な業務内容を定期的に評価することが望ましい」ことを追加するとしています。
 「地域医療体制確保加算」については、施設基準に、「原則としてタイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること」が追加されています。また、医師の時間外・休日労働時間に係る基準についても具体的な上限時間が示されています。



 

医療 DX


 医療情報・システム基盤整備体制充実加算については、オンライン資格確認の導入が2023年4月に原則義務化されたことを踏まえ、体制整備に係る評価から、情報取得・活用に係る評価へ変更され、名称も「医療情報取得加算」に見直されています。
 また、オンライン資格確認により取得した診療情報・薬剤情報を実際に診療に活用可能な体制を整備し、電子処方箋及び電子カルテ情報共有サービスを導入し、質の高い医療を提供するため医療DX に対応する体制を確保している場合の評価として、「医療DX推進体制整備加算(8点)」を新設するとしています。なお、電子処方箋(2025年3月末)並びに電子カルテ情報サービス(2025年9月末)、マイナ保険証の実績(2024年10月開始)については経過措置が設けられています。
 今後は、医療DXへの対応として、既に始まっている電子処方箋と2025年から始まる電子カルテ情報共有サービスの準備を始める必要があります。
 「診療録体制加算」については、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」が更新されたことを受けて、サイバーセキュリティ対策が講じられるよう、専任の医療情報システム安全管理責任者の配置及び院内研修の実施を求める医療機関の対象範囲が、許可病床数200 以上の医療機関に拡大しています。また、医療情報システムのオフラインバックアップ体制の確保、BCP(事業継続計画)の策定及び訓練の実施についても評価が行われています。



入院


 高齢者の救急患者が急性期病棟に搬送されている実態を受けて、高齢者搬送に対して、一定の体制を整えたうえでリハビリテーション、栄養管理、入退院支援、在宅復帰等の機能を包括的に提供する「地域包括医療病棟」が新設されています。
 また、介護保険施設等の入所者の病状が急変した際に、介護保険施設等に協力医療機関として定められている医療機関で、介護保険施設等と平時からの連携体制を構築している医療機関の医師が診察を実施したうえで入院の必要性を判断し、入院をさせた場合の評価として「協力対象施設入所者入院加算」が新設されています。
 「地域包括ケア病棟入院料」については、入院期間に応じた評価に見直され、40日以内と41日以上に2区分され、入院期間が長いほど点数が低い設定になっています。なお、40 歳未満の勤務医師、事務職員等の賃上げに対応するため、一律で引き上げが行われています。
 「回復期リハビリテーション病棟」については、質の高いアウトカムに基づいた医療を推進する観点から要件及び評価が見直されています。回復期リハビリテーション病棟入院料1、2は100点引き上げられ、3~5は18点アップとなっています。
 「療養病棟入院基本料」について、疾患・状態と処置等の医療区分と医療資源投入量の関係性を踏まえ、医療区分に係る評価体系が見直されています。また、中心静脈栄養やリハビリテーションなどの評価が見直されています。
 「有床診療所療養病床入院基本料」については、医療法施行規則による療養病床の看護職員及び看護補助者の人員配置標準に係る経過措置の終了に伴い要件が見直されています。



 

短期滞在手術


 短期滞在手術等基本料1(日帰り)については、対象手術等の入院外での実施状況を踏まえ評価が見直されています。従来の麻酔の有無による2区分の評価から、「主として入院で実施している手術」と、それ以外に分け、それ以外については約半分の点数となっています。
今回、イの入院で実施している手術については、20項目に絞られており、そのリストから漏れた手術は点数が半減となってしまうことになります。



生活習慣病関連


 令和6年度の改定議論の中で、生活習慣病患者の管理について「生活習慣病管理料」と「特定疾患療養管理料」の内容が似通っているという指摘があり、そこで特定疾患療養管理料の対象疾患から、生活習慣病である糖尿病、脂質異常症及び高血圧を除外することで、生活習慣病患者の管理は生活習慣病管理料に一本化することとなりました。
 一方、「生活習慣病管理料」については、検査等を含む生活習慣病管理料(Ⅰ)と、検査等を含まない生活習慣病管理料(Ⅱ)に区分され、(Ⅰ)は一律40点引き上げられ、(Ⅱ)は333点となりました。
 算定に当たっての変更点としては、生活習慣病管理料における療養計画書を簡素化するとされ、令和7年から運用開始予定の電子カルテ情報共有サービスを活用する場合は、血液検査項目についての記載を不要とするとしています。あわせて、療養計画書について、患者の求めに応じて、「電子カルテ情報共有サービスにおける患者サマリーに、療養計画書の記載事項を入力した場合、療養計画書の作成及び交付をしているものとみなす」としています。 その他、生活習慣病の診療実態を踏まえ、少なくとも1月に1回以上の総合的な治療管理を行う要件が廃止されており、おおむね4か月に1回の管理となります。



在宅医療


「在宅時医学総合管理料」及び「施設入居時等医学総合管理料」については、単一建物診療患者の数が50人を超えるケースがあるといった実態を踏まえて変更が行われています。従来の3区分から5区分に増え、単一建物診療患者の数が「10 人以上19 人以下」「20 人以上49 人以下」「50 人以上」の場合の評価が新設されることになり、点数も一律で引引き下げられています。
 一方、他の保険医療機関等の関係職種がICT を用いて記録した患者に係る診療情報等を活用した上で、医師が計画的な医学管理を行った場合の評価として、「在宅医療情報連携加算(100点)」が在宅時医学総合管理料及び施設入居時等医学総合管理料の加算として新設されます。
 「往診料」については、コロナ禍においての夜間の発熱患者への往診が急増した実態を受けて変更が行われています。①往診を行う医療機関の患者(過去60日以内に在宅患者訪問診療料等を算定している)②往診を行う医療機関と連携体制を構築している患者(他の保険医療機関において過去60日以内に在宅患者訪問診療料等を算定している)③往診を行う保険医療機関の外来において継続的に診療を受けている患者④往診を行う保険医療機関と平時からの連携体制を構築している介護保険施設等に入所する患者と、それ以外に分けて緊急往診加算等が見直されています。



精神医療


 精神医療においても、地域包括ケアシステムの構築を推進する観点から、多職種の重点的な配置、在宅医療の提供実績、自宅等への移行率の実績、診療内容に関するデータの提出等の施設基準を設定した精神病棟として、「精神科地域包括ケア病棟入院料」が新設されています。また、精神病床に入院する患者に対して、入院早期から包括的支援マネジメントに基づく入退院支援を行った場合の評価として「精神科入退院支援加算」が新設されています。
 「通院・在宅精神療法」については、60分以上の精神療法を行った場合を引き上げ、30分未満の精神療法を行った場合の評価が引き下げられています。また、精神疾患の早期発見及び症状の評価等の必要な診療を行うにつき十分な体制を有する医療機関が精神療法を行った場合について、通院・在宅精神療法に「早期診療体制充実加算」が新設されています。さらに、児童・思春期の精神疾患患者に対する外来診療の充実を図る観点から、多職種が連携して患者の外来診療を実施した場合について、通院・在宅精神療法に「児童思春期支援指導加算」が新設されています。それに伴い、通院・在宅精神療法の「20歳未満加算」が引き下げられています。
 さらに、「情報通信機器を用いた精神療法に係る指針」を踏まえ、「通院精神療法」について、情報通信機器を用いて行った場合の評価が新設されるとともに、「情報通信機器を用いた診療の初診の場合には向精神薬を処方しないこと」をホームページ等に掲示していることを要件として追加されています。



まとめ


 令和6年度の診療報酬改定では、昨今の物価上昇並びに賃金上昇を受けて、賃上げの対応として基本料が引き上げられ、「ベースアップ評価料」が新設されました。
 医療DXについては、オンライン資格確認、電子処方箋、そして電子カルテ情報共有サービスの普及を目指して、「医療DX推進体制整備加算」が新設されています。
 医療、介護、障害サービスのトリプル改定の対応として、制度間の不具合の解消、医療と介護の連携、医療と障害サービスの連携を進める内容となっています。
 入院医療については、急性期と回復期をつなぐ役割として、「地域包括医療病棟」が新設されています。
 外来医療については、生活習慣病患者を特定疾患療養管理料から除外し、「生活習慣病管理料」に一本化しました。また、「短期滞在手術管理料Ⅰ(日帰り)」についても、入院で主に行っている手術とそれ以外に対象手術が分かれ、それ以外については点数が半減しています。
 在宅医療については、在医総管及び施設総管が現在の3区分から5区分に変更され、大人数を対象にしているケースを引き下げています。また、往診料についても緊急往診についてケース分けが行われています。一方で、ICTを用いた医療関係職種・介護関係職種との連携に関する評価を新設しています。
 令和6年度改定のポイントは、医療機関間、医療と介護の「情報連携」と、それを効率的に進めるための「医療DXの推進」です。また、医師の働き方改革が始まることから、「(デジタルツールを活用した)業務効率化」と「医師から他職種へのタスクシフト」も重要となります。診療報酬の改定とは、診療メニュー表が変わるとともに、それに伴い大きな体制変更を余儀なくされます。今回初めての6月改定となるため、従来よりも準備期間がとれるため、しっかりと院内で対策を検討できると思われます。






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