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令和6年度診療報酬トリプル改定を見据えて~今、できること~

2024.01.16

MICTコンサルティング株式会社 代表取締役 大西 大輔 氏筆者プロフィール 
MICTコンサルティング株式会社 代表取締役 
大西 大輔 氏


令和6(2024)年度の診療報酬改定は、医療、介護、障害福祉サービスのトリプル改定となります。また、診療報酬改定DXの影響から改定時期の後ろ倒しが決定され、診療報酬本体は6月、薬価は4月と改定時期自体も変更が行われるという異例の改定となっています。

令和6年度診療報酬改定の基本方針


 基本方針は、12月11日に開催された社会保障審議会(社保審)の医療部会で決定しました。改定に当たっての「基本認識」としては、①物価高騰・賃金上昇、経営の状況、人材確保の必要性、患者負担・保険料負担の影響を踏まえた対応②全世代型社会保障の実現や、医療・介護・障害福祉サービスの連携強化、新興感染症等への対応など医療を取り巻く課題への対応③医療DXやイノベーションの推進等による質の高い医療の実現④社会保障制度の安定性・持続可能性の確保、経済・財政との調和--の4点が示されています。

 

改定の基本的視点と具体的方向性


(1) 現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進【重点課題】

 医療分野は賃上げが他の産業に追いついていない状況にあり、しかも医療分野における人材確保の状況は悪化しており、長期的にも、生産年齢人口の減少に伴った人材不足が見込まれています。そこで、「必要な処遇改善等を通じて、医療現場を支えている医療従事者の人材確保のための取組を進めることが急務」としています。
 また、2024年4月から「医師の時間外労働の上限規制」が適用されることもあり、「総合的な医療提供体制改革の進展の状況、医療の安全や地域医療の確保、患者や保険者の視点等を踏まえながら、診療報酬の対応がより実効性のあるものとなるよう検討する必要がある」としています。



【具体的方向性の例】

○医療従事者の人材確保や賃上げに向けた取組

○各職種がそれぞれの高い専門性を十分に発揮するための勤務環境の改善、タスク・

シェアリング/タスク・シフティング、チーム医療の推進

○業務の効率化に資する ICT の利活用の推進、その他長時間労働などの厳しい勤務

環境の改善に向けての取組の評価

○地域医療の確保及び機能分化を図る観点から、労働時間短縮の実効性担保に向けた

見直しを含め、必要な救急医療体制等の確保

○多様な働き方を踏まえた評価の拡充

○医療人材及び医療資源の偏在への対応




(2) ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進

 団塊の世代が75歳以上となる2025年に向けて地域包括ケアシステムの構築などがこれまで進められてきましたが、「2025年以降も人口減少・高齢化が進む中、患者の状態等に応じて質の高い医療を適切に受けられるよう、介護サービス等と連携しつつ、切れ目のない提供体制が確保されることが重要である」としています。そのため、「医療DXを推進し、今般の感染症対応の経験やその影響も踏まえつつ、外来・入院・在宅を含めた地域全体での医療機能の分化・強化、連携を着実に進めることが必要である」としています。



【具体的方向性の例】

○医療DXの推進による医療情報の有効活用、遠隔医療の推進

○生活に配慮した医療の推進など地域包括ケアシステムの深化・推進のための取組

○リハビリテーション、栄養管理及び口腔管理の連携・推進

○患者の状態及び必要と考えられる医療機能に応じた入院医療の評価

○外来医療の機能分化・強化等

○新興感染症等に対応できる地域における医療提供体制の構築に向けた取組

○かかりつけ医、かかりつけ歯科医、かかりつけ薬剤師の機能の評価

○質の高い在宅医療・訪問看護の確保



(3) 安心・安全で質の高い医療の推進

  現在、物価が高騰している中で、患者にとって必要な質の高い医療を確保するためには、「患者の安心・安全を確保しつつ、医療技術の進展や疾病構造の変化等を踏まえ、第三者による評価やアウトカム評価など客観的な評価を進めながら、イノベーションを推進し、新たなニーズにも対応できる医療の実現に資する取組の評価を進める」としています。



【具体的方向性の例】

○食材料費、光熱費をはじめとする物価高騰を踏まえた対応

○患者にとって安心・安全に医療を受けられるための体制の評価

○アウトカムにも着目した評価の推進

○重点的な対応が求められる分野への適切な評価(小児医療、周産期医療、救急医療等)

○生活習慣病の増加等に対応する効果的・効率的な疾病管理及び重症化予防の取組推進

○薬局の地域におけるかかりつけ機能に応じた適切な評価、薬局・薬剤師業務の対物中心

から対人中心への転換の推進、病院薬剤師業務の評価

○薬局の経営状況等も踏まえ、地域の患者・住民のニーズに対応した機能を有する医薬品

供給拠点としての役割の評価を推進

○医薬品産業構造の転換も見据えたイノベーションの適切な評価や医薬品の安定供給の

確保等


 

(4) 効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上

 今後、高齢化や技術進歩等により医療費の増大が見込まれる中、国民皆保険を維持するためには、「制度の安定性・持続可能性を高める不断の取組が必要」としています。これまでも、2025年をターゲットに医療保険制度の安定性・持続可能性の向上につながる各種施策を進めてきており、「2025年をまたぐ今回の改定は、これらの施策を着実に進めていくという視点が必要不可欠であり、医療関係者が協働して、医療サービスの維持・向上を図るとともに、効率化・適正化を図ることが求められる」としています。



【具体的方向性の例】

○後発医薬品やバイオ後続品の使用促進、長期収載品の保険給付の在り方の見直し等

○費用対効果評価制度の活用

○市場実勢価格を踏まえた適正な評価



令和6年度の診療報酬改定率


 令和6年度の診療報酬改定率については、12月20日に予算大臣折衝が行われ、診療報酬本体が+0.88%、薬価等が▲1%、全体では▲0.12%となりました。各科の改定率は、医科が+0.52%、歯科が+0.57%、調剤が+0.16%となっています。財務省との交渉の上、なんとか診療報酬改定はプラス改定を確保しています。
 「診療報酬本体」の内訳として、①40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師・薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工所等で従事する者の賃上げに資する措置分として、+0.28%程度。②看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種について、令和6年度にベア2.5%、令和7年度にベア2.0%を実施していくための特例的な対応として、+0.61%。③入院時の食費基準額の引き上げ(1食当たり30円)の対応として+0.06%。④生活習慣病を中心とした管理料、処方箋料等の再編等の効率化・適正化として▲0.25%が計上されています。なお、これらはすべて2024年6月に施行されるとしています。
 「薬価等」の内訳としては、薬価が▲0.97%、材料価格が▲0.02%となり、合計で▲1.00%となりました。具体的には、①イノベーションの更なる評価等として、革新的新薬の薬価維持、有用性系評価の充実等への対応②急激な原材料費の高騰、後発医薬品等の安定的な供給確保への対応として、不採算品再算定に係る特例的な対応(対象:約2000品目程度)。③ イノベーションの更なる評価等を行うため、長期収載品の保険給付の在り方の見直しを行う、としています。
 「診療報酬・薬価等に関する制度改革事項」として、①医療DXの推進による医療情報の有効活用等 ②調剤基本料等の適正化が挙げられています。また、医療従事者が令和6年度に2.5%、令和7年度に2.0%のベースアップへと確実につながるよう、配分方法の工夫を行うとしています。今回の改定による医療従事者の賃上げの状況、食費を含む物価の動向、経営状況等について、実態を把握していくとしています。
 「医療制度改革」として、長期収載品の保険給付の在り方の見直す案が提示されています。後発医薬品が世に出てから5年以上経過したもの、または後発医薬品の置換率が50%以上となったものを対象に、後発医薬品の最高価格帯との価格差の4分の3までを保険給付の対象、4分の1は保険外給付(選定療養費)とする案が示されています。この内容は、2024年10月より施行するとしています。その他、薬剤自己負担の見直し項目である「薬剤定額一部負担」「薬剤の種類に応じた自己負担の設定」「市販品類似の医薬品の保険給付の在り方の見直し」についても引き続き検討を行っていくとしています。

 

医療DXに関する検討項目


 医療DXについては、政府から6月2日に「医療DXの推進に関する工程表」が提示され、それに基づき厚労省は実行に移していくこととなります。まず「オンライン資格確認」については、医療扶助(生活保護)の対応を2024年3月に予定しており、2024年末には紙の保険証を廃止し、マイナ保険証に一本化するとしています。それに伴い、「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」の評価の見直しや、「電子カルテ情報共有サービス」で3文書6情報を共有できる仕組みの整備についても普及促進が検討されています。「電子処方箋」については、現在普及がかなり遅れており、今後普及を加速させるために、診療報酬で新たに評価を行いたい考えが示されています。

 サイバーセキュリティについては、「オフラインでのバックアップ」を行っている医療機関の評価が検討されています。また、2022年より「医療法第25条第1項に基づく立ち入り検査」において、全ての医療機関に医療情報システム安全管理責任者の配置を求めており、診療報酬上でも400床以上の医療機関に専任の医療情報システム安全管理責任者を求めています。安全管理責任者の配置についても診療報酬でどのように要件化していくかが論点となります。さらに、医療DXが推進される中で、サイバーセキュリティインシデントが発生した場合を想定して、BCPの策定やBCPに記載した手順に従った方法に基づく訓練を行うことについても評価したい考えが示されています。

 

働き方改革に関する検討項目


 「地域医療体制確保加算」について、2024年4月から始まる医師の働き方改革を推進するため、医師の長時間労働が減少するように要件を見直すことが検討されています。

 医師の負担軽減策としては、「特定行為研修修了看護師」が配置され、適切に役割を果たせるよう業務分担することに対する評価が検討されています。また、病院薬剤師についても、病棟を含む幅広い業務を習得させる教育研修体制とともに、地域の病院へ出向して地域医療を経験させる取組を行っている医療機関の評価を行っていく考えが示されています。
 さらに、「医師事務作業補助体制加算」についても、適切な人事管理を推進すること及び業務範囲の明確化が検討されています。
 「手術・処置の時間外等加算」については、複数主治医制等の要件やインターバルの確保を推進する観点からの見直しが行われる予定です。
 「看護職員の負担軽減」については、夜間における看護業務の負担軽減に向けて「ICT、AI、IoT等の活用による業務負担軽減」の取組の評価が検討されています。

 

入院医療に関する検討項目


【急性期入院医療】

 「特定集中治療室管理料」の患者指標について、重症度、医療・看護必要度に加え、入室日のSOFAスコアを活用していく考えが示されています。また、「ハイケアユニット入院管理料」についても、一般病棟ではなく治療室における入院管理が必要な患者をより評価する観点から、ハイケアユニット用の重症度、医療・看護必要度の項目の見直しが検討されています。
 また、2024年4月に医師の時間外労働時間の上限規制が始まることを受け、宿日直許可を受けて宿日直を行っている医師によって施設基準を満たすケースの取扱いについて検討が行われています。特定集中治療室においても、宿日直勤務の医師が治療室にいる新たな区分を設けることについて検討されており、新たな区分では、特定行為研修修了看護師等の専門性の高い看護師を活用していく考えが示されています。

【回復期入院医療】
 「地域包括ケア病棟」については、在宅医療の後方支援病院と役割を進めるために、高齢者等の救急搬送患者の受け入れを推進するための要件化が検討されています。また、「短期滞在手術等基本料3」の算定が多い地域包括ケア病棟が、地域包括ケア病棟の指標において、他の地域包括ケア病棟とは異なる傾向があることを踏まえ、指標のあり方の見直しが検討されています。
 「回復期リハビリテーション病棟」については、適切なアウトカム評価を推進する観点から、FIMの測定の見直しが検討される共に、疾患別リハビリテーションの上限単位数や体制強化加算のあり方も議論されています。また、発症後早期からのリハビリテーションを提供した方が、FIMの変化が大きくなることを踏まえ、発症後早期から集中的にリハビリテーションを提供することの評価が検討されています。

【慢性期入院医療】
 「療養病床」については、医療法施行規則における看護師等の員数等についての経過措置の期限が2024年3月31日であり、今後の療養病棟入院基本料の注11に規定される看護職員等の配置基準及び医療区分2・3を満たす患者割合についての経過措置についてさらに延長するかどうかが議論されています。
 「障害者施設等入院基本料」については、施設基準に定める患者割合を満たさない病棟を一定程度認めることから、患者割合の取扱いを明確化していく考えが示されています。

【精神病床】
 精神病床については、早期から実施する退院調整の効果や、精神病床における入院の短期化、地域での支援体制が整備されつつあること等を踏まえ、より現場の実情に合わせた評価体系に整理することが検討されています。特に、精神病床における入退院支援の取組を評価したい考えが示されています。
 また、近年増加傾向にある「精神疾患を有する児童思春期の患者」の診療体制について、児童思春期精神医療を積極的に実施する医療機関において提供される外来診療への評価のあり方が検討されています。


 

外来医療に関する検討項目


 外来医療については、「外来機能の機能分化」をさらに進めるために、紹介状なしで受診した患者等からの受診時定額負担に係る改定の影響及び紹介受診重点医療機関の公表状況等を踏まえ、対象範囲の拡大等が検討されています。

 かかりつけ医機能に係る評価等については、地域包括診療料・加算や機能強化加算を届け出ている施設の方がかかりつけ医機能を有している割合が高い実態があるものの、地域包括診療料・加算の届出のある施設においても「サービス担当者会議」への割合は5割強に留まっているとしています。医療と介護のさらなる有機的な連携を進めるために、主治医と介護支援専門員双方向のコミュニケーションを促すための評価が検討されています。また、かかりつけの患者の診療情報を一元的に医療情報プラットフォームで管理することについて、かかりつけ医機能をより強化するために診療報酬上の評価を行っていきたいとしています。
 時間外対応加算については、近年の情報化社会の進展により、ICTを活用して時間外の患者の相談に対応するサービスがみられるとし、このようなICT等を活用した新たな取組みについての時間対応加算としての評価の在り方が検討されています。
 書面を用いた説明については、改正医療法により、かかりつけ医機能を持つ医師には文書により患者に対して適切な説明を行うことが努力義務とされていることを踏まえ、文書交付(デジタルも含む)による患者への適切な説明を推進するための方策が検討されています。
 かかりつけ医機能に係る評価としては、地域包括診療加算、特定疾患療養管理料、外来管理加算、生活習慣病管理料等がありますが、それぞれの診療報酬上の評価の趣旨を踏まえ、「併算定の関係」について整理が行われようとしています。
 生活習慣病の医学管理については、「生活習慣病管理料」の療養計画書を一定程度簡素化することが検討されています。また、リフィル処方箋は生活習慣病に対して、他の疾患と比べ多く発行されている実態があることを踏まえ、生活習慣病の疾病管理においてリフィル処方箋の活用を推進するための方策が検討されています。


 

まとめ


 2024年度の診療報酬改定は、6年に1度の医療、介護、障害福祉サービスのトリプル改定となります。また、昨今の物価上昇ならびに賃金上昇、2024年4月から「医師の時間外労働の上限規制」が始まるため、医師並びに医療従事者の働き方改革の推進、処遇改善などが議論されています。

 次期改定のポイントは、医療機関間、医療と介護の「情報連携」と、それを効率的に進めるための「医療DXの推進」です。また、医師の働き方改革が始まることから、「(デジタルツールを活用した)業務効率化」と「医師から他職種へのタスクシフト」も重要となります。
 診療報酬の改定とは、診療メニュー表が変わるとともに、それに伴い大きな体制変更を余儀なくされます。次期改定を予測し、その準備を早期に進めることが重要です。今後は年明けに改定項目が提示され、2月に諮問答申、3月に告示というスケジュールで進む予定です。

 







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