●演者プロフィール●
石川 賀代(いしかわ・かよ) 氏
社会医療法人石川記念会HITO病院 理事長
石川ヘルスケアグループ 総院長
2021年6月24日のJBHC医療総合セミナーDay2では、社会医療法人石川記念会HITO病院理事長の石川賀代氏を講師にお招きし、「医療機関におけるDXの現状とこれから~未来創出HITOプロジェクト~」をテーマにお話しいただきました。
持続可能な社会に向けて
2040年に日本の高齢者人口はピークを迎え、人口構造は大きく変化していきます。当院が位置する愛媛県四国中央市においては、高齢者人口および圏域での医療需要は2020年に既にピークを迎えており、介護需要は2030年にピークアウトすると推測されています。そうした中、自院の立ち位置を明確にし、社会保障給付費の増大や働き方改革の推進、新型コロナウイルス感染症への対応等のさまざまな問題をどう乗りこえていくかは大きな課題です。都市集中型から地域分散型へという流れや環境問題も含め、2040年までに持続可能な社会のあり方を模索しなければ病院も生き残れない時代であると言っても過言ではないでしょう。
医療業界に求められているのは、チームでそうした課題を共有することです。そのためには、いかに迅速に情報収集を行い、時間と場所に縛られずに働くかがカギとなると考えており、これに向けた当院の取り組みを紹介します。
ICT活用をすすめる新プロジェクトを発足
石川ヘルスケアグループは、社会医療法人石川記念会のほか、医療法人健康会および社会福祉法人愛美会と3つの法人で構成されています。HITO病院は、愛媛県の東の端に位置する四国中央市という人口8万7000人の地方都市に、2013年に開院しました。病院名は、行動規範であるHumanity、Interaction、Trust、Opennessの頭文字から名付け、"Human 1st"を第一に掲げています。257床を有する急性期ケアミックス型病院として、誰からも選ばれ信頼される病院、次世代に対応できる医療体制、地域に根差した医療提供を念頭に置き、5疾病を軸としながら、終末期や変性疾患等、ニーズに応じた医療提供体制を整えてきました。2021年4月には、早期治療により要介護状態の防止につなげたいと心・脳血管疾患センターを開設するなど、専門性の高い疾患のセンター化にも取り組んでいます。
5年前からは、"人"が中心の当院のコンセプトにもとづき、ICTの利活用を通じた医療の質および業務効率の向上を目的に、「未来創出HITOプロジェクト」をはじめました。ここで重視しているのは、働き方改革を単なる時間外労働の削減ではなく、働きやすい環境作りとして捉えることです。環境整備を行うことがスタッフの小さな成功体験の積み重ねやモチベーションの向上を生むだけでなく、人材定着・確保へと効果を発揮し、持続可能な病院経営と医療の質向上を実現すると位置づけています。
プロジェクトの運営は、私の直轄下にICT推進課(2020年8月からDX推進課へ名称変更)を発足し、3名の医師を配置しています。"小さくはじめて横展開"を合言葉に、まず着手したのは全医師へのiPad貸与と、電子カルテ音声認識ソフトの導入です。2年後には、リハビリテーション課にiPhone100台を導入し、日勤帯のスタッフ、法人内のケアマネジャーや医療ソーシャルワーカーへも拡大してきました。現在、当グループ内で590台のiOSデバイスを運用しています。
スマートフォン導入により、AI音声認識システム活用や電子カルテ連携活用による業務の効率化に加え、特に業務用SNSによる情報共有の迅速化が進みました。これまでの電話連絡による1対1のコミュニケーションでは、複数人への連絡の手間や業務の中断が課題でしたが、チャット機能の利用により"1対多"へのコミュニケーションが可能となり、情報を適切かつリアルタイムに共有できます。朝礼や申し送りもSNSに切り替えたことで、患者さんのベッドサイドにいち早く向かえるようになりました。これらはグループ内の他施設へも発展し、効率的な病床運営やスムーズな退院支援を実現しています。食事形態やリハビリの実施方法についてもiPhoneを用いて動画で伝達することで、適切なケアの継続性を担保しています。今後はグループ外にも進めていきたいと実証実験を重ねているところです。
さらに、iPhoneによる業務マニュアルの電子化・動画化による学習インフラの整備も行っています。院内共有サーバーにマニュアルをアップロードし、スタッフがiPhoneから検索・閲覧できるようにすることで、いつでもどこでも手技やケアについて確認できて医療の質が高まったほか、時間外での指導も減少するなど、人材育成にも良い影響が表れています。
コロナ禍で加速するDX
こうしたICT基盤があったからこそ、コロナ禍にも即時対応できていると感じています。非接触での対面診療やオンライン診療、院内でのオンラインミーティングの実施、iPadを用いた緩和ケア病棟での転院調整、患者家族のオンライン面会など、スタッフの混乱もなく、感染リスクを回避できる体制を即座に整えることができました。採用活動についてもYoutubeで臨床研修医の業務内容や研修体制等の動画配信を行うなど、工夫を凝らしながらZ世代に響く採用活動を継続しています。
さらに、オンラインミーティングを通じてグループでの意見交換やケアの動画共有も促進されたことで、再入院患者が減少し、患者さんが安心して在宅に帰る体制づくりにも寄与しています。
一方、医師のリモート対応についても積極的に取り組んでいます。2020年6月から、全医師がスマートフォンを通じて院外から電子カルテや画像を確認できる環境を整え、リモートでのカンファレンスや回診も実践できるようになりました。また、医師の時間外勤務の大半を占める救急外来を担う整形外科や脳神経外科では、呼び出しがあった際にスマートフォンで画像を確認したうえで、病院に赴く必要があるか、リモートでの指示で対応できるかといった判断ができるようになり、取り組み開始後2カ月で両部門あわせて時間外の呼び出しが45時間減少しました。
さらにコロナ禍にあっては、時間と場所を選ばない教育体制も必要であると、スマホアプリによるオンライン教育の仕組みを開発しました。スキマ時間を使って無理なく学習ができるうえ、習熟度が一目でわかるため評価者からも好評です。今後、働き方や人事考課、給与体系を考えるうえで、見える化はますます必要になってくるでしょう。
こうして2020年4月に発足した働き方推進室とDX推進課が各部署に介入し、DX推進と時間外労働の削減を進めてきた結果、対前年比で54.1%の削減を達成しました。業務を効率化した分、ベッドサイドでの本来業務に集中し、就業時間内に業務を終わることができれば、スタッフの幸福度が上がりますし、医療の質の担保にもつながると考えています。
最初はトップダウンではじめた本プロジェクトでしたが、現場と試行錯誤を重ねながら、院内に浸透させてきました。実感したのは、DXには組織の意識改革がなくてはならないということです。また、今はまだ院内でのiPhoneというキーデバイスの活用に留まっていますが、DXは患者さんのために推進されるべきです。まだまだ遠い未来かもしれませんが、着実に取り組みを進め、地に足がついた病院運営を行っていきたいと考えています。
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