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新型コロナで今何をすべきか?
JBHC医療総合セミナー2021 Day1講演禄

2021.08.12

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●演者プロフィール●

宮田 満(みやた・みつる)
株式会社宮田総研 代表取締役社長
株式会社ヘルスケア・イノベーション 代表取締役社長




JBHC(JBCCヘルスケア・コンソーシアム)は2021年6月から7月までの4日間にわたり、「JBHC医療総合セミナー2021」を開催しました。今回は「コロナ発生後の医療の行く末」をテーマに4名の講師をお招きし、オンラインでご講演いただきました。
Day1(2021年6月17日)では、株式会社宮田総研 代表取締役社長の宮田満氏をお招きし、「新型コロナで今何をすべきか?」と題して、我が国の対策を評価するとともに、今後の行動指針についてお話しいただきました。



日本国内の新型コロナウイルスの感染者は約78万人、うち死亡数は約1万4000人です(2021年6月16日時点)。他の先進国と比べて感染者数は低いのですが、我が国の対策は必ずしもうまくいっていません。数ある対策の欠陥の中から、「初動の失敗」「ワクチン国産化の失敗」「ベンチャー企業を育むエコシステムの欠落」「現場データ収集システム構築の失敗」の4つに絞って検証します。



政府、国民、医療関係者の
甘い判断が「初動の失敗」に


 今から考えると、2020年4月の第1波は非常に小さな波でした。しかし、ここでパンデミックを我が国の政府は甘く判断しました。政府だけではなく、国民も医療関係者も甘く判断したと考えています。

 初動ミスを列挙すると、1つ目は、厚生労働省がH1N1インフルエンザと同様に認識して初動が遅れたこと。2つ目は、中国政府とWHO(世界保健機関)の隠匿と誤判断です。

 3つ目は、安倍首相が途中から厚労省の楽観論を疑うようになったこと。厚労省がもし、H1N1のパンデミックの教訓に従って、3週間ぐらい前に手を打っておけば、水際対策はもう少しうまくいったはずです。

 4つ目は、位置づけの曖昧な専門家会議を重用したこと。パンデックのときの法的な整備がなされていなかったために、6カ月間は法的な位置づけも曖昧な人たちの意見を基に政策判断が行われてきました。

 5つ目は、保健所のキャパシティに限界があったとこと。濃厚接触者の洗い出しや軽症患者の自宅待機の世話、ホテル待機への誘導、医療機関との連絡など、あらゆることが保健所に集中してしまい、キャパシティはすぐに限界が来ました。

 限界が来たときに、民間企業や民間機関と協力して、感染症の検査などの情報収集を行う仕組みが整備されていなかったため、現場の情報は中央に収集できない状況でした。これが6つ目です。
 7つ目は、ほぼ10カ月、新型コロナによる死亡患者の剖検情報が得られず、新型コロナの重篤性を判断できなかったこと。8つ目は、無症候感染者を過小評価していたこと。症状のある有症患者の濃厚接触者だけをコンタクト・トレーシングをして隔離することによって、この感染症を制圧するという方法を過信していました。

 9つ目は、現場の危機的な状況に関して霞が関に円滑に情報が上がってこなかったために、対策が後手に回ったこと。2020年4月と5月に補正予算は成立しましたが、特に第一次補正は悲劇的なものでした。そして10番目が、中国にマスクや医薬原料を過度に依存していたために、マスクや防御具などのエッセンシャルな医療用具や、PCRの試薬が品薄になるという危機的な状況になったことです。



インフラ不足が招いた
ワクチン国産化の失敗


 ワクチンが国産化されていれば、私たちは今ごろ、国民の60%ぐらいが1回目の接種を終えていたはずです。しかし、ワクチン供給を海外に依存していたため遅れました。国産化が遅れた大きな原因は、イノベーションを実現するインフラが不足していたことです。国内のワクチンメーカーは、組換え蛋白ワクチン、不活化ワクチン、弱毒化ワクチンという既存技術の洗練と収益化に集中し、そこにあぐらをかいていました。

 また、国内の製薬企業は、mRNAの技術革新を認識できていませんでした。武田薬品工業は後にモデルナから販売権を得ましたが、mRNAワクチンは本当に使えるんだという認識が半年から1年以上、国内製薬企業は遅れたということになります。

 一方、日本医療研究開発機構(AMED)という政府機関があり、1500億円の研究開発費をワクチンと治療薬開発に投入していましたが、基礎研究ばかりで間に合いません。しかも、ワクチンの有効性の評価手法がなく、できあがったワクチンを治験するネットワークもありませんでした。

 これらの両方を、アメリカの国立衛生研究所(NIH)は持っていたため、モデルナとドイツのビオンテックというベンチャーからファイザーが導入して治験を始め、2020年12月には両方とも認可するという、破壊的なイノベーションが可能になりました。

 mRNAワクチンではなく、今までの既存技術のワクチンだと、早くて5年、遅ければ10年かかっていたと思います。既存技術では次のパンデミックには間に合わないので、私たちもmRNAワクチンを開発する国産力を持たなければならないと考えています。



ベンチャー企業を育む
エコシステムの欠落


 なぜ日本ではmRNAワクチンが開発できなかったのか。背景にあるのは、ベンチャー企業を育むエコシステムの欠落です。

 前述の通り、ファイザーはビオンテックというドイツのベンチャー企業から導入しましたし、モデルナはベンチャーそのものです。日本も基盤技術については世界と競っていましたが、大企業の経営者から見れば、MERS(中東呼吸器症候群)や新型コロナがどれぐらいの市場になるかわからない段階で決断することはできませんでした。「寄らば大樹の陰」がリスクになっていることに、ぜひ気づいていただきたい。その上で、ベンチャーを支援するエコシステムをつくっていかないと、我が国は非常に危ないのではないかと懸念しています。



現場データの収集システムの
構築が喫緊の課題に


 そしてもう1つが、現場のデータ収集システム構築の失敗です。実は、政府の分科会委員に取材したときに、「現場の窮状は委員の個人的なコネで把握するしかなかった」という発言を得ています。加えて、既存の感染症研究所の感染症疫学情報網は集計まで時間がかかり、使える状況ではありませんでした。

 ところで、昨年、我が国初の核酸医薬が、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)と日本新薬の共同開発によって、我が国初の筋ジストロフィーの治療薬として発売されましたが、この背景には、NCNPの患者レジストリの貢献がありました。

 医療データ、患者さんのデータをシェアリングすることで診断率は向上し、医療の適正化が進みます。実際にAMEDが進める未診断疾患イニシアチブ (IRUD)では、新しい疾患だけでなく、創薬標的まで見つかっています。我が国には難病研究の長い歴史があり、そこに難病の新薬を創出するインフラがあると考えます。

 「希少疾患じゃないか」とおっしゃる方もいるかもしれませんが、実は難病の原因遺伝子の解析から疾患のパスウェイが明らかになり、普通の病気の治療薬ができることもあります。つまり、難病の研究というのは難病の人たちのためならずということです。もちろん、新型コロナでも役に立っています。

 例えば、COVID-19の国際研究組織の1つに、COVID HUMAN GENETIC EFFORTがありますが、これは数多くの世界の難病のゲノム研究組織が参加して、つくり上げた組織です。なぜかというと、難病と同じAPI(アプリケーション・プログラム・インターフェイス)を新型コロナに活用しているからです。その結果、例えば、重症度の主な遺伝的危険因子はネアンデルタール人に起源があるということがわかりました。

 臨床データの収集が最も進んでいるのは、英国のNHS(ナショナル・ヘルス・サービス)です。NHSの加入者はスマホから無料で公共性の高いデジタル医療を受けることが可能です。

 一方、日本は、いまだ一定の標準規格化がなされておらず、社会医療情報の分散が進んでいます。これを何とか統合しないと、我が国は新型コロナでも出遅れていますし、次のパンデミックでもまた同じことを繰り返すでしょう。



最後にまとめると、今、新型コロナで何をやるべきか?

 1つは、ワクチン接種の促進です。ワクチンの国産化の推進も必要です。ワクチンは今年から1年かけて2度国民に打ちます。変異型ウイルスのことを考えると、今後、変異型に対応したmRNAの1回接種が毎年行われるようになる可能性もありますから、いつまでも海外のmRNAワクチンに依存することはできません。医療費の出血を、何としてもここで、国産化で止めないといけないと思っています。

 中長期的な課題としては、医療情報のシェアリング・システムの構築、行政の電子化、パンデミックに限定した有事立法、ベンチャー企業支援に対するエコシステム、パンデミックに対する国民の啓発などが必要だと考えています。







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