MICTコンサルティング株式会社 代表取締役
大西 大輔 氏
2023年3月3日、MICTコンサルティング株式会社 代表取締役の大西大輔氏を講師にお招きし、「中小規模病院向け『医療DX最前線』」と題して、アフターコロナの医療DXの方向性について、マーケティングとオペレーションの2つの観点からお話しいただきました。当日の内容を要約してご紹介します。
政府の医療DX政策――電子カルテ普及率100%のその先へ
政府が目指す医療DXとはどのようなものでしょうか。令和4年度診療報酬改定のうちデジタル化関連について見ると、オンライン診療、オンライン資格確認、データ提出加算、リフィル処方箋などがあります。
オンライン資格確認では、マイナンバーカードの健康保険証としての使用に必要なシステムの導入が2023年4月から義務化されますが、導入の遅れから猶予期間が設けられました。マイナンバーカードの本質は、医療機関全部をネットワークでつなぐことです。一方、裏側にはセキュリティの問題があり、サイバーリスクについてもしっかり考える必要があります。
次に、この1月からスタートした電子処方箋です。患者の本人確認だけでなく、医師の確認、薬剤師の確認もシステムを通じて行うことで、ここは大きなインパクトがあると思います。
審査支払機関の改革も進んでいます。2022年10月に国保総合システムのコンピュータチェックが全国統一され、チェックレベルが均一化されました。今後、2024年中には支払基金と国保連のシステムが一本化されます。今後、新たなチェックシステムが全国で統一され、オープンになると、あらゆる手続きがデジタル化され、電子カルテ、電子レセプトは当たり前の時代になると考えられます。
今後の方向性を示すものとして「骨太の方針」があります。2022年版には「全国医療情報プラットフォームの創設」「電子カルテ情報の標準化」「診療報酬改定DX」という3つの大きな話があり、向こう3年間で議論されていく予定です。
そのベースは、自由民主党がつくった「医療DX令和ビジョン2030」にあります。全国に医療情報プラットフォームを張り巡らせて、その内容が地域連携のベースになると書かれています。レセプト、健診情報は当たり前で、ワクチン、予防接種、電子処方箋情報、電子カルテなど医療全般の情報の共有化を目指すプラットフォームをつくるとしています。
今まで電子カルテ情報を共有できなかったのは情報が標準化されていなかったためということで、「HL7 FHIR」という標準規格を導入し、2030年度までに電子カルテの100%の普及率という目標が設定されて、今年ぐらいから補助金が創設される可能性があります。中小規模の病院は乞うご期待です。
一方、私が期待しているのは、「診療報酬改定DX」です。現在、支払基金より公開されている「電子点数表」を電子カルテ、レセコンに組み込みモジュール化することで、電子カルテおよびレセコンベンダーの改定作業をなくし、大幅に効率化するものです。
電子カルテの普及率を見ると、2020年の最新データでは400床以上が90%以上、200床以上399床以下が70%以上で、200床未満とクリニックは約50%にとどまります。2026年度までに80%、2030年度までに100%という目標を政府は掲げていますので、一般診療所や非DPC(診断群分類)対象病院に対しても、クラウドベースの電子カルテの導入と、そのための補助金活用が進むのではないかと思います。
電子カルテが100%普及した2030年度以降の世界を展望します。健康寿命延伸に向けたデータヘルス改革ということで、患者情報の共有による診療の効率化や、PHR(パーソナルヘルスレコード)による健康・予防の推進、AIを活用した医療の質の向上、データを活用した質の向上などが期待されます。
コロナ禍で大きく変わった患者ニーズにいかに応えていくか
次に、コロナ禍で変わった患者のニーズについてです。待合室が混んでいるだけで患者が来なくなるという、とんでもない時代になりました。中小規模病院は予約制やオンライン診療を積極的に導入していく必要があります。多くの病院、クリニックはGoogleに監視され、口コミの内容いかんでは患者が来なくなるからです。患者のITリテラシーも上がっていますから、Web予約や無人受付、スマホからの問診、キャッシュレスなどにも対応していく必要があります。
「感染予防」「生産性向上」「患者満足」の3つが、アフターコロナ時代のトレンドであり、患者の不安の取り除き、利便性を向上するとともに、自らの働き方を改革していくところにデジタルを活用していくことが重要です。
その際、4つのポイントを考えなくてはいけません。1つ目はルールの変化、2つ目はニーズの変化、3つ目はそれに対するマーケティングの改善、4つ目はオペレーションの改善です。私がいつもお話しているのは、オペレーション改善については「へらす、やめる、おきかえる」です。DXは皆さんの仕事を奪いません。皆さんを楽にするツールです。今やっている仕事でなくせるものは何か、DXに置き換えられるものは何かという視点で、人間が優位に進んでほしいと思います。
SNSとデジタルツールを組み合わせて集患効果を高める
マーケティングDXでは、集患のために「みつける、あつめる、くりかえす」ことが大事です。患者は今、ネットからやって来ます。Googleで検索すると、リスティング広告が一番上にあり、次にMEO(マップエンジン最適化)、さらにSEO(検索エンジン最適化)による結果が表示されます。MEOでは口コミと地図が連携するため、悪評が増えると逆効果になります。
近年はSNS内の検索機能で情報収集を行うケースも増えてきています。ユーザー数が多いのはLINEですが、20代が多いのはTwitterやInstagramです。これらはフォロワー(登録者)に対し、好きなタイミングで情報発信することができる「プッシュ型メディア」ですので、「プル型メディア」の検索エンジンと組み合わせることで集患効果を高めてもらいたい。
なぜ集患が重要なのでしょうか。日本は人口減少で患者も減っています。患者の医療費負担が上がれば再来患者も減ってしまいます。既存の患者を維持するために、できるだけ離脱(他院受診)をなくさないといけません。そのために、次回の目安(予約)をつくり、不満を取り除き、利便性を向上し、慢性疾患の発掘、関係づくりをすることが不可欠で、ここにデジタルを活用しないと集患できないのです。
病院もホームページを持っていて当たり前、さらにSNSのアカウントを持ち、その中にオンライン診療やネット予約、Web問診、お知らせなどのメニューをつくって、各種デジタルツールと組み合わせるのが、これからのマーケティングDXです。
「マーケティングの3C」という概念があります。3Cとは、「市場(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Company)」のことです。中小病院にとっての顧客は、患者と地域医療機関であり、競争相手はネットを含めて増えています。差別化を図り、より多くの顧客を獲得するには、スピードと連携を強みにすること。つまり、紹介状の作成を迅速にし、協力先を徹底的に増やすことが大事です。
タスクシフティングとオートメーション化で業務効率を向上
オペレーションDXのポイントは、タスクシフティングとオートメーション化です。医師の働き方改革が進み、2024年4月から時間外労働の上限規制の適用開始となります。病院勤務医の事務負担軽減のため、医師事務作業補助体制加算がありますが、いまだに病棟配置がメインとなっています。今後は外来配置についても検討していったほうが効率的で、患者の待ち時間も減ります。
医師事務作業補助者を外来配置する際のヒントを紹介します。問診票をデジタル化し、医師の隣にクラークを置きます。レセプト点検もここでやることで、医師の負担は大幅に軽減されます。これから紹介状の作成も増えてくるかと思いますが、これも医師に書かせないことです。音声入力を使うか、クラークに下書きの作成を依頼するようになるでしょう。
もう1つ、受付と精算は今後、オートメーション化します。再来受付、オンライン資格確認、Web問診は当たり前、自動精算、キャッシュレスも当たり前の病院がどんどん増えていきます。システムに対応できない患者に対しては、コンシェルジュを置いてフォローを行う必要があることも忘れないでください。
電子カルテについて、大事なポイントを2つ挙げます。1つは、端末を減らさないでくださいということ。クラウドタイプの電子カルテにして端末をどんどん増やしていけば、効率が上がります。1人1台は当たり前と考えてください。もう1つは、セット化・テンプレート化です。カルテの記事や処方などをいつもダイレクトに打っているとスピードは上がりません。できるだけ直接入力を減らすために、セット化が必要です。AIでセット化・テンプレート化を行う時代もそう遠くないことでしょう。
医療DXはシステムを入れて終わりではなく、そこからがスタート
最後にまとめです。持続可能なICT化を実現するために、現場のニーズ、情報の活用、最新技術、持続・継続を考慮する必要があり、開発者は一生懸命、医療の現場に足を運ぶべきです。また病院側は目の前の悩みを伝えるのではなくて、10年後、20年後をイメージしてオーダーしてください。デジタル化は病院改革です。デジタル化を進めることが病院を変えるんだという意識の下で進めていってほしい。
電子カルテの導入は当たり前の時代です。マネジメントツール、マーケティングツール、そして働き方ツールも併せて導入してください。各種システム・ツールを導入することで、スタッフやクラークの教育効果も高まり、ひいては患者の対応レベルと業務効率の向上が期待されます。
医療DXはシステムを入れて終わりではなくて、むしろ、そこからがスタートです。定期的な見直し会議、システム評価、業務フローの見直し、カスタマイズの見直しなどを行い、使いこなしていってください。
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