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医療機関におけるICTネットワークの現状と課題

2021.03.09

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●著者プロフィール●

金城 悠貴(きんじょう・ゆうき)
社会福祉法人恩賜財団済生会支部神奈川県済生会横浜東部病院 事務部医事企画室 室長

大学卒業後、医用画像システムベンダーでSEとして勤務。
以後、横須賀市立うわまち病院、プライアルメディカルシステム株式会社を経て、2016年より現病院で勤務。
医療情報技師。医療経営士2級


現在、医療機関が活用する主な情報システムは、下記に分類されます。


・電子カルテシステム
・各部門システムと機器類
・地域全体での医療情報共有システム
・ロジスティクス(SPD、薬品)
・ERP(人事経理等)
・グループウェア、Officeソフト


これらに共通するのが、基本的に、いずれもICTネットワークに繋げたPCで動くソフトウェアであり、扱うデータの大半は人間が入力したテキスト情報であるということです。一部、機器類からの画像や波形等の情報もありますが、デジタルトランスフォーメーション(以下「DX」と記す)を進める観点からは、マルチメディア化がまだまだ足りていないというのが現状です。


医療におけるICTネットワークシステムは課題が多い一方で、その導入や入替等に伴う運用設計の作業そのものが、縦割りになりやすい病院組織を横に繋げ、病院経営に良い影響を与える絶好の機会となります。もちろんそれ以外にも、人材採用市場におけるブランディングやデータ活用による医療の質向上、ペーパーレス化の実現による保管スペースの削減といった物理的な問題の解消まで、さまざまな効用が期待できます。


ここでは、ICTネットワークを発展させていくにあたっての課題、ビジョン、その差異を埋めるためにできることについて述べたいと思います。


 

カギはガバナンスと費用の出どころ


課題① ガバナンス


システムは、導入しさえすれば業務が改善されるというものではなく、運用もあわせて変化させなければ、ICTネットワークは機能しません。システムに合わせた"新しい"運用を設計し、それに基づいて動きを全職員で共有する必要があります。全職員での共有が必要なのは、部分最適の牙城を崩せなければ、各部門で行われる"特別運用"がデータの2次利用を難しくし、かつ、あらゆる分析結果のエビデンスとしての効力を失わせる大元の原因となってしまうからです。とはいえ、システムの設計や構築段階から全職員をコミットさせていったとしても、共有しきれないケースが生じることもあるでしょう。


医療機関には、提供する医療が専門的であればあるほど、口出しをしてはいけないような文化があります。部をまたいだ異動もないため、病院の組織は縦割り化が進みます。とはいえ、病院は一つの組織です。ガバナンスを構築しにくい状況ですが、この構築なしにはICTネットワークの投資効果も発揮できません。


課題② ICTネットワークに係る費用の捻出


ICTネットワーク自体は収益を生むものではありません。さらに、導入したことで業務の効率化ができたとしても、人件費を減らせるわけでもなく、材料費や経費が大きく削減されるわけでもありません。しかし、費用は医業収益比で平均約2%掛かります(イニシャルコストを使用年数で割った額+年間保守料等の維持費)。


この費用はどこから捻出するのでしょうか。さらに発展させるための予算枠はどこから持ってくれば良いのでしょうか。ICTネットワークに期待できる先述の効用も数字では評価しにくいため、ICTネットワークに対する意思決定は、経営陣のいわゆる"総合的な判断"によって行われているのが現状です。


数字的な根拠に乏しいからこそICTネットワークの目的やビジョンが明確に言語化されている必要があり、どれだけ投資するかについても、目的やビジョンに基づいての判断が問われます。



医療機関におけるICTネットワークのビジョン


社会全体として、Society5.0を見据えたDXが進むなか、当然、その先にはSDGsがあらゆる組織の必須課題となろうかと思います。こういった先進的な概念や取組に対する順応は、医療界は比較的遅いと感じています。他業界で成熟してノウハウが溜まってから取り入れるとリスクが抑えられるメリットはありますが、変化が著しい昨今で他業界のレガシーを待つ時間はありません。


経済産業省が発出した「DX推進ガイドライン」(2018年12月)において、DXに必要な12の項目として提示されているのは、半数以上が組織体制やガバナンスに関する項目です。


ガバナンスは、先の課題①でも述べていますが、最も組織力を左右するものであるため、この課題は避けては通れません。


技術面においては、冒頭に述べた「人間が」「入力する」「テキスト」の3点が大きく変化します。定期的に測定した断片的な生データではなく、センサーにより24時間365日の連続的な記録から抽出されたレポートを活用するのが当たり前になります(ホルター心電図の解析結果を診察時に活用するイメージ)。情報そのものもマルチメディア化して、音声、動画を扱うようになります。ロボティクスも働き手不足の波を受けてすぐに普及するでしょう。インフラの一つであるネットワークも5Gがリリースされましたが、総務省は既に6Gに向けた検討を始めています。



今後の展望


ここまで医療ICTネットワークの現状と将来像について述べてきました。この差異を埋めていくための大きな課題は、投資効果を高めるためのガバナンス構築、費用をどう工面するかという2つです。


しかしガバナンス構築は、残念ながら時間がかかります。「DX推進ガイドライン」にもあるように、トップがDXビジョンを自らの言葉で職員に語ったり、戦略に準じた組織に改編するといった手間のかかる行動を積み重ねることが必要です。


加えて、ボトムアップ的に推進するチームがあってもいいのかもしれません。有志者を集めて、委員会や職員への啓蒙活動を通じて組織全体のムーブメントに変えていくなど、数年間かけて継続的に展開する、いわゆるCIO部門を設置してはいかがでしょうか。


費用については、現存する医療ICTネットワークの保守料の見直しを提案します。


保守料には、何かあった時のための保険やバックアップの様な性質の料金が含まれていることがあります。たとえば、基幹システムと部門システムを同じように扱って、部門システムにも超高級な保守プランを組んでいたりすることがあります。


ほかにも、例えば6年に1度、全システムがトラブルで停止してしまったケースを想定してみます。以下の2パターンでは一体、どちらの費用が大きいでしょうか。


① システムの停止期間を半日におさえるための超特急の保守プランに6年間支払い続ける費用。

② 通常の保守プランで、復旧までの2~3日間を紙カルテで運用するために備えておく費用。


システムが停止したことによる損害は、いちシステム担当者の責任範囲を超える点と、影響範囲は経済的なものだけではないことから、通常であれば担当者はリスクを顕在化させないための(メーカーの提案通りの超高級な)プランで院内に提案するでしょう。つまり上記でいう①です。しかし、このままでは費用がかさみます。そのため責任者レベルの方が「絶対に止めない部分(フールプルーフ)」と「止まった時のために別運用を用意しておく部分(フェイルセーフ)」を仕分けしたうえで、自院でなるべくフェイルセーフで対応する方針のもと保守内容を一つひとつチェックすることで、保守プランは最適化できる可能性があります。削減した費用はDXのための投資に転換することが可能になります。


このように、費用総額を変えないまま、未来のビジョンに向かって攻めの投資へと組み替えていく。そしてDXを進めていくことが、今後のスタンダードになると考えています。




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