●著者プロフィール●
中村 祐介(なかむら・ゆうすけ) 氏
医療経営 中村税理士事務所 代表
●2001年、税理士法人川原経営入社。以後、医療特化型税理士として約200の医療機関の税務顧問・医療経営コンサルティングを担当。12年よりTOMA税理士法人に勤務。19年10月、医療経営中村税理士事務所を開設。税理士、医療経営士1級
1 コロナに負けない医療経営とは
2020年は新型コロナウイルス感染症の影響があり、資金繰りに関するご相談をたくさん頂きました。
特に多かったのが「コロナ特例」と呼ばれる各種の支援策についてです。こうした支援策が数多く生まれ、さらに短いスパンで改正されたため、医療機関の皆様も内容の把握に苦慮されていた印象です。
その半面、分院を展開するための事業計画や、利益がしっかり出たことによる節税対策のご相談もたくさん頂きました。コロナでマイナスの影響は出たものの、しっかり持ち直している医療機関と言えます。
持ち直している医療機関とそうではない医療機関の差は何なのでしょうか。その答えのひとつは「資金繰りを改善する力」ではないでしょうか。
受診控えにより減収となる一方で、固定費(地代家賃等)は変わらず出ていくという状況の中、どう資金繰りを改善していくのか。「チーム(組織)として対応していく体制」や「信頼できる外部の専門家に相談できる体制」の有無が大きなポイントとなります。
そこで今回のコラムでは、医療機関が今からでも備えるべき資金繰りについて解説していきます。
このコラムを読んで、「資金繰りを改善する力」を養いましょう。
2 資金繰りのポイントとは
資金繰りを改善するためには、「入金を増やし、出金を減らすこと」に尽きます。当たり前のことですが、これが難しいために資金繰りは大変なのです。
それでは、どうしたら良いのでしょうか。
大切なのは、「入金を増やす策」と「出金を減らす策」をたくさん持つことです。コロナ対策として創設された特例を中心に、「入金増加策」と「出金減少策」の両方を各々図表にまとめてみましたので、ご覧ください。
(1)入金増加策
まずは、「入金増加策」から見ていきましょう(図表①)。
最初に検討すべきは、医療経営の「基本となる増収策」です。今後、社会的な需要が高まることが確実なオンライン診療などは検討するべきですし、分院別・診療科別等の部門の管理をしっかり行い、好調部門に経営資源を集中し、利益確保を目指すのも良いでしょう。こうした普遍的な増収策はコロナ収束後においても、引き続き効果を発揮します。それが他のコロナのために創設された特例との違いであり、その分、難しいとも言えますが、トライし続ける必要があります。
次に検討すべきは、「融資」です。3年間実質無利子や5年間元本据置という非常に大きなメリットがあります。2020年にこの融資を受けたことにより、現在は資金がある状態の医療機関も多いと思います。今後はこれをどう使い、どう返していくのかという段階に入ります。しっかり資金計画を立てましょう。これでもまだ厳しい医療機関向けには、再融資も行われています。従来、金融機関は短期間での再融資を敬遠する傾向がありましたが、このコロナ禍で状況が変化し、借りやすくなっています。ただし、資金計画がより重要になることは言うまでもありません。
そして、コロナ特例の象徴と言えるのが、「補助金」です。
従来、医療法人は対象外となる補助金が多かったのですが、「感染拡大防止等支援事業」や「発熱外来診療・検査体制確保事業」等、医療機関向けの補助金が創設されました。内容は皆様よくご存知だと思いますので、実務上のポイントだけお伝えします。
・「感染拡大防止等支援事業」
対象となる感染拡大防止のための費用は、想像以上に拡充されています。拡大防止のための人件費やシステム投資等大きな費用も対象になるため、多くの医療機関が上限金額に達すると思います。枠に余りがある病院は今一度、対象費用の範囲を見直してみましょう。
・「発熱外来診療・検査体制確保事業」
事前準備に手間がかかりますが、かなり大きな入金額になると思います。資金繰りへの効果や地域医療への貢献という観点からも魅力的です。ただし、対応する職員の負担感を軽減するために、しっかりとした指示や継続的なフォローが欠かせません。
残りの「助成金」や「給付金」については、既に検討済みの医療機関が多いと思います。
2021年1月15日が申請期限だった家賃支援給付金と持続化給付金は、申請期限が1ヶ月延長になりました。家賃支援給付金も家賃という大きな固定費を補填してくれるため、期待を寄せていましたが、単月50%以上減収等の要件が厳しく、給付要件を満たすことが難しかったことは残念です。
最後に、各自治体単位で「独自の支援策」を設けている場合もあります。ホームページ等でしっかり確認するようにしてください。
(2)I T導入補助金
医療機関向けの補助金として、普遍的な補助金がこの「I T導入補助金」です。このコロナ禍において「医療のデジタル化」がより求められるようになりました。「I T導入補助金」は、I Tの力によって、生産性の向上や業務の効率化を目指す医療機関にとって大きな味方になってくれる補助金です。代表的なものとしては、電子カルテやレセプト管理ソフトが対象になりますが、医療機関向けのI Tサービスはたくさんありますので、積極的に導入を検討しましょう。
①申請条件
まず、中小企業者を支援するという補助金の前提から「職員300人以下」が要件になっています。そして、「I T導入支援事業者」から「登録されたI Tツール」を購入することが申請の前提です。つまり、誰から何を買っても申請対象になるというわけではありません。I Tサービス等を提供している会社のH P等をしっかり確認しましょう。
②補助額
補助額と補助率については、図表②をご覧ください。特別枠はコロナ対策として新設されたもので、その補助額は通常枠に比べ大きく、補助率も高くなっています。デジタル化を推進することでコロナ禍を乗り越えてほしいという国からのメッセージが込められています。
3)出金減少策
「出金減少策」についても、図表③にまとめましたが、最近改正されたものはありません。
内容はご存知の方が多いと思います。固定資産の免除・減免も減収要件が厳しく、意外と使えていない印象です。また、令和3年度の税制改正大綱も発表されましたが、医療機関として特に気を付けるものはないでしょう。とはいえ、税制に限りませんが、第3波と言えるコロナウイルスの流行により新たな支援策が生まれる可能性もありますので、最新情報の確認は欠かさずに行いましょう。
実務上、注意が必要なのがMS法人などの関連法人との取引です。平常時は医療法人の業務運営の補助や理事長の資産管理等に活用されてきました。こうしたメリットがあることは今も変わりませんが、資金繰りが厳しい状況であれば、内製化へ切り替えるなど取引を見直してみても良いと思います。関係者間取引であるため、実行しやすく、資金繰り改善に即効性のある対策です。
3 今後に向けて
新型コロナウイルスの流行により医療機関を取り巻く環境は大きく変わりました。この外部環境の変化に対応できるか否かが勝負の分かれ目であり、「資金繰りを改善する力」は勝つための「最大の武器」となります。自院内で改善策を持ち寄り、チームで対応するも良し、外部の専門家の力を借りて対応するも良しです。経営支援策もたくさんありますので、最新情報を入手し、適用を検討しましょう。経営管理体制を改めて見直す機会とし、この難局を乗り越えていきましょう。
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