メール
メニュー

厚生労働省が進めるデータヘルス改革

2020.01.27

厚生労働省政策企画官

医政局総務課医療情報化推進室

笹子宗一郎氏



2019 年11 月22 日に開催されたJBCC ヘルスケアコンソーシアム秋の勉強会では、厚生労働省政策企画官(併)医政局総務課医療情報化推進室の笹子宗一郎氏を講師にお招きし、「厚生労働省が進めるデータヘルス改革」と題してご講演いただきました。当日は、データヘルス改革の意義や推進計画のポイントのほか、「ゲノム医療・AI 活用の推進」「自身のデータを日常生活改善につなげるPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)の推進」「医療・介護現場の情報利活用の推進」「データベースの効果的な利活用の推進」という4つの政策についてお話いただきました。以下、講演の内容を要約してご紹介します。


厚生労働省のデータヘルス改革の取り組みは、2015 年の有識者会議からスタートしました。2017 年に「データヘルス改革推進本部」を立ち上げ、同年7 月に初めての政策文書を発表しました。今年(2019 年)9 月には「今後のデータヘルス改革の進め方について」ということで、2021 年度以降に実現を目指す未来と2025 年度までの工程表を発表しました。本日は、この工程表を中心にお話をさせていただきます。


データヘルス改革については、2019 年度予算722億円をいただき、2020 年度は589億円の概算要求を行いながら進めています。ポイントの1つは、2021 年度以降に実現を目指す未来の実現に向けて「国民、患者、利用者」目線に立って取り組みを加速化すること。そしてもう1つは、個人情報保護やセキュリティ対策の徹底、費用対効果の視点も踏まえることです。


こうした考えの下、「ゲノム医療・AI 活用の推進」「自身のデータを日常生活改善につなげるPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)の推進」「医療・介護現場の情報利活用の推進」「データベースの効果的な利活用の推進」という4つの政策を進めていくこととしています。


ゲノム医療―目指すは全ゲノム情報を活用したがん等の治療

AI活用―AI診断支援システムの開発が進行中

がんゲノム検査には、単一遺伝子検査、遺伝子パネル検査、全ゲノム検査の3種類があります。遺伝子パネル検査は2019年6月から保険適用となり、全国11のがんゲノム医療中核病院等から遺伝子配列情報や臨床情報を集約する、がんゲノム情報管理センター(C-CAT)が稼働しています。C-CAT に登録されたがんゲノム情報レポジトリーを用いてAI を用いた解析などを行い、新たな治療や診断法につなげ、患者さんにフィードバックされることを目的としています。

今後目指す未来は、全ゲノム情報を活用したがんや難病の原因究明、新たな診断・治療法の開発です。これに向けて、質の高い全ゲノム情報と臨床情報を集積し、分析・活用体制を整備する必要があります。このため、英国の取り組みなども参考にしながら、10 万人の全ゲノム検査を実施し、数値目標や人材育成・体制整備を含めた具体的な実行計画を今年度中に策定する予定です。
(注)2019年12月に全ゲノム解析等実行計画が策定・公表された。


一方、AI 活用については、医療・介護従事者の負担軽減、新たな診断方法や治療方法の創出、質の高い医療や介護を提供する際のサポート役になることが期待されており、もう1つの大きな政策分野です。先行事例としては、AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)の補助金で、病理画像を日本病理学会のデータベースに収集し、病理学会が企業の協力の下にAI 診断支援システムの開発につなげるプロジェクトが進んでいます。


今後は先行事例について、着実な開発と、社会実装を進めていきながら、それ以外の分野についてもボトルネックの解消、あるいは研究の選択と集中をしながら進めていく必要があると考えています。政府はゲノム医療、画像診断支援、診断・治療支援、医薬品開発、介護・認知症、手術支援を重点6 領域に掲げ、これまで研究開発を支援してきましたが、もう少し細かく具体的なシーンを分けたうえで推進していこうということで、保健医療分野AI 開発加速コンソーシアムで議論がなされています。また、領域横断的な課題としては、電子カルテの標準化、人材育成などの取り組み、医療関係職種へのAI 教育、国際展開などについても、厚生労働省だけでなく他省庁と連携しながら推進していきます。


PHR―マイナポータルを活用した本人への提供や包括的な検討がスタート

2つめのPHR の目的は、健康情報などをご覧になって、ご自身が健康になるよう行動変容を起こしていただくこともあるでしょうし、薬剤情報や医療情報をご覧になりながら、医師等との円滑なコミュニケーションにつなげていくということもあります。そうは言っても、PHR として活用する情報の種類は多く、電子化がそもそもなされていない場合もあるといった課題もあります。電子化を進めていくには誰が管理し、どう保存し、誰がコストを負担するのかといった点も社会実装においては重要な論点となります。こういったことを整理しながら、情報を活用して、自身の健康等情報を正確に把握できる環境を整備していく必要があります。


健康等の情報にはさまざまな情報がありますが、特定健診、乳幼児健診などのデータは2020年度から、薬剤情報は2021 年度から、マイナンバー制度に基づくマイナポータルを活用して本人が閲覧できるようプロジェクトを進めています。仕組みとしては、被保険者番号を個人単位化しこれを活用して、資格情報や特定健診データとレセプトから抽出した医療費・薬剤情報を管理することにより、これらの情報を閲覧できるようにするものです。オンラインの資格確認の仕組みを構築するにより可能となるものですので、ご本人が保険医療機関などに来た場合も、ご本人の同意の下、医療従事者が情報を閲覧することも可能とする予定です。

予防接種履歴については、すでにマイナポータルでの提供がスタートしていますし、乳幼児健診情報、特定健診情報、薬剤情報などの提供については、稼働に向けて準備中ですが、さらに自らの健診情報の利活用を推進していくために、電子化や相互互換性のあるデータ形式の推進などについて整理を進めるとともに、データ提供などに関する契約条項例を提示します。また、PHR のあり方に関する基本的な方向性や課題について包括的な検討も行い、2020年の夏に工程表を策定することとしております。


医療・介護現場での情報利活用―

保健医療情報を全国の医療機関で確認できる仕組みの構築に向けて
3つめの医療・介護現場での情報の利活用については、保健医療従事者等が、患者さんの過去の医療等情報を確認することによって最適な医療や介護を実現することや、重複投薬の適正化、医療・介護の連携が進むというコンセプトで推進しております。

最も進んでいる取り組みは、救急医療情報共有サービスです。医療的ケア児の医療情報共有システムについては、すでにプロトタイプができていて、本格運用に向けて準備を進めているところです。これはクラウド上に医療的ケア児本人のさまざまな情報を入力し、さらに主治医やかかりつけ医からも医療情報を入力してもらうというものです。この基盤が本格稼働すれば、救急時にも救急隊員や救急医、その他の医師が医療的ケア児の情報を閲覧することができます。たとえば、旅行先でもその地域のお医者さんが医療情報をご覧になって適切な治療ができるといったイメージです。


今後の取り組みとしては、保健医療情報を全国の医療機関で確認できる仕組みの推進が決まっています。そのなかで薬剤情報と特定健診情報については、先述のオンライン資格確認の基盤を活用して、全国の医療機関で確認できる仕組みの稼働を目指します。また、医療情報化支援基金の活用などによって技術動向を踏まえた電子カルテの標準化を進めるとともに、電子処方箋の本格運用などについても取り組んでいきます。


データベースの効果的な利活用―

保健医療に関するデータベースを連結しビッグデータ化を推進
4つめのデータベースの効果的な利活用の推進では、保健医療分野におけるさまざまなデータベースをビッグデータとして利活用し、民間企業や研究者による研究の活性化、患者の状態に応じた治療の提供などを目指すものです。

すでに「健康スコアリングサービス」が始まっていますが、これはナショナル・データベース(NDB)のレセプト(診療報酬明細書)と特定健診データを活用することで、保険者のデータヘルス対策の強化や企業とのコラボヘルスの推進を目的として、経営者等に対して従業員の健康状態を成績表のような形でお知らせするサービスです。自社の従業員の健康状態や医療費などが「見える化」され、企業と保険者の間で健康課題を共有したり、予防や健康づくりに取り組む上での連携強化に活用していただくことを目指しています。

介護分野では、科学的に自立支援の効果が裏付けられた介護を実現するため、介護保険総合データベース(介護DB)やリハビリデータに加えて、分析に必要なデータを新たに収集するデータベース(CHASE)を構築します。
取り組みの加速化に向けては、NDB、介護DB、DPC データベースの連結精度を向上させるとともに、NDB とその他の公的データベースとの連結解析について検討しております。個人単位化される被保険者番号を活用した医療等情報の連結の仕組みを検討し、必要な法的手当てを行う予定です。

今年5 月の法改正により、2020年度からNDB と介護DB の連結解析が、2022年度からは両者にDPC データベースを加えた連結解析が可能となる予定です。これらのデータベースのほかにも、全国がん登録データベース、医薬品等の安全対策のためのレセプトやカルテ等のデータベースである「MID-NET」、さらには介護の新しいデータベースなど、公的なデータベースがあり、これらの連結解析に向けて今後、検討を深めていく予定です。ただし、顕名データベースと匿名データベースの連結については、法的にも技術的にも課題が大きいのではと考えています。

医療ICT をめぐる関連の動きとしては、改正個人情報保護法が施行から2年以上経過し、GDPR(EU 一般データ保護規則)の施行など国際情勢も踏まえて、来年(2020 年)の通常国会に改正法案が提出されるのではないかということで、政府内部でも動きが見られます。
また、医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律(次世代医療基盤法)が2018 年5月に施行されましたが、政府としては認定事業者の認定を始めとして、医療データの活用により健康・医療の研究開発が進むよう取組を進める方針です。(※)2019年12月、第1号の事業者が認定された。
セキュリティ対策の推進も重要な課題です。厚労省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」も、改定から2年以上が経過しましたので、テクノロジーの進展を踏まえて、関係者と連携しながら、必要な見直しをすることとしております。

お問い合わせはこちらから矢印